『虫娘』は井上荒野による日本の小説(ライトノベル)作品。「小学館文庫」(小学館)から発売。
あの日、あたしは生き返らなかった――。 シェアハウス〈Bハウス〉には五人の住人がいる。樅木照(ヌードモデルをしながら体を売っている)、桜井竜二(イタリアン・レストランのオーナー・シェフ)、妹尾真人(売れない俳優)、碇みゆき(フリーライター)、鹿島葉子(銀行員)、それにハウスを管理する不動産屋の青年・曳田揚一郎。 照の謎の死が、それぞれの人物に新しい光と影を投げかける。照はその死後も彼らの頭上を浮遊している。《Bハウスのひとたちは自分以外みんな、不自由だと照は感じていた。あたしの死によって、気の毒なことにあのひとたちはさらに不自由になってしまったらしい》 彼らは、「あの日」のことをそれぞれに回想する。あのパーティは一体何だったのか、そして照はなぜ死んだのか、それは事故だったのか、自殺だったのか、それとも殺人?《どこからどこまでが本当なの? 私たち、それぞれまったく違うことを、本当のことだと思っているのかもしれないでしょう?》《みんなが照を嫉んでいたにちがいない。みんな不自由だったが、照は自由だった。俺も彼女が嫉ましかった。でも、俺は殺していない。じゃあ、誰だ?》《あの日、あのことをはじめたのは自分だった。ただ、はじめたときに悪意があった。悪意の正体は嫉妬だった》 悪意と嫉妬、自由と不自由――小さな染みがじわじわ広がり、みんなが少しずつその染みに侵されていく。そして「あの日」がやってきた。