『月の砂漠の略奪花嫁』は貴嶋 啓による日本の小説(ライトノベル)作品。イラスト担当は池上紗京。「講談社X文庫」(講談社)から発売。
国土の三分の一を乾燥した大地に覆われたバスィール王国。 王都サマルから馬車で4日ほど離れた港町タイーブで、ラティファは母サヘルと、商人の義父ハイサムともに暮らしていた。実の父であったハサールが亡くなり、従兄弟のハイサムがその商売を引き継ぐとともに母と再婚したためだ。闊達なラティファは、母を横暴な義父から守りたいと願う反面、この窮屈な生活から解放されて自由に暮らしたい、と思い続けてきた。 ところが、ラティファは義父から突然国王の甥であるサッタールのもとに嫁ぐよう命じられる。サッタールと面識があった彼女は、彼の自分勝手な性格を思い出して不安がるが、義父も母も喜ばしいことだと話を聞いてくれない。 こうなることが自分の運命だったのだ、とあきらめたラティファは、花嫁衣装に身を包み、王都に向かう。 うだるような暑さでぼんやりとする彼女だったが、ふと外で鷹が鳴いているのに気づく。大きな悲鳴が上がり、花嫁行列は砂漠の民に襲撃を受ける。大きく馬車が揺れ、彼女の目の前には、青い鮮やかな瞳を覗かせた男が立ちはだかる。アーディドと名乗る男はラティファを強引に連れさり、こう問いかける。ハイサムから預かっているものを俺に渡せ――。自らの汚名をそそごうとするアーディドと、戸惑いながらも彼のに惹かれていくラティファ。砂漠を舞台にした二人の逃避行が幕を開ける。